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382.トピック=配偶者手当の見直し(続き) [8.トピック]

 前回、配偶者手当の見直し問題を取り上げたのだが、この問題を考えるためには、日本における雇用や社会保障の在り方について考える必要がある。
 このノートで何度も取り上げている濱口桂一郎氏の著作『新しい労働社会』(岩波新書)から引用したい。

 以上からもわかるように、それだけでは生活できない非正規労働者の低賃金は、家庭の生活費も含めて保障する正社員の生活給制度と裏腹の関係にあります。ここではごく簡単に生活給制度がいかに形成されたかを見ておきましょう。
 戦前の賃金制度は職種別賃金から大企業を中心として勤続奨励給に移行していきましたが、生活保障の観点はありませんでした。これを初めて提唱したのは呉海軍工廠の伍堂卓雄氏で、一九二二年に、労働者の思想悪化(共産化)を防ぐため、年齢が上昇して家族を扶養するようになるにつれ賃金が上昇する仕組みが望ましいと説きました。この生活給思想が戦時期に皇国勤労観の立場から唱道され、政府が累次の法令により年齢を扶養家族数に基づく賃金制度を企業に義務づけていったのです。
 敗戦によってこれらの法令が廃止されると、今度は急進的な労働運動が生活給思想の唱道者となりました。一九四六年の電算型賃金体系は戦後賃金制度の原型となったものですが、年齢と扶養家族数に基づく生活保障給でした。当時、占領軍や国際労働運動が年功賃金制度を痛烈に批判していたにもかかわらず、労働側は同一労働同一賃金原則を拒否し、生活給原則を守り抜いたのです。(p119-120)

 もう一つ、労働関係の当事者として生活給制度から一定のメリットを享受した主体があります。それは政府です。同一労働同一賃金原則に基づく職務給が一般的な社会においては、労働者が結婚してこどもができ、そのこどもが学校に進んで行くにつれて、年齢とともに上昇する必要な生活費、教育費、住宅費などが賃金によっては十分にまかなわれませんから、それらを社会保障の対象として現金給付なり現物給付なりの形で提供していかなければなりません。さもなければ、普通の労働者がワーキングプアに陥ってしまします。欧州諸国の福祉国家とは、年金医療といった日本と共通する社会保障制度だけではなく、育児、教育、住宅といった分野においても社会政策的な再配分が大規模に行われる社会でもありました。
 ところが、戦後日本においては、これらの費用は企業が正社員に支払う生活給の形でまかなわれてきたために、その費用を政府が負担せずに済んできました。(p123)

 日本の生活給制度を見る場合に、生活給が適用されている正社員だけでそのメリットとデメリットを考えても全体像は分かりません。生活給に基づき年齢とともに賃金が上昇していく正社員と、生活が維持できないような低水準に張り付いた非正規労働者の両方があって初めて日本型雇用システムが成り立っているからです。
 しかし、それを労働市場の二重構造などとうかつにいうこともできません。なぜなら、非正規労働者の低賃金は彼らが生活給を稼ぐ正社員の妻やこどもであるという前提の上に、(法的な公正さはともかく)社会学的な正当性を得ていたからです。いささか皮肉な言い方ですが、この組み合わせを日本的フレクシキュリティと呼ぶことができるかもしれません。(p126-127)


 ところで、平成26年の人事院勧告で示されている標準生計費を見ておきたい。標準生計費については、人事院の説明では「国民一般の標準的な生活の水準を求めるため、「家計調査」(総務省)等に基づき、費目別、世帯人員別に算定した標準生計費(並数階層の支出金額)」であるとされている。

<平成26年世帯人員別標準生計費>
  1人 121,200円
  2人 179,580円
  3人 199,600円
  4人 219,630円
  5人 239,660円

 人事院が公表している国家公務員(行政職(一))のモデル給与例の勧告後の給与月額を見ておく。比較の意味で、それぞれ世帯人員別標準生計費を並べる。

  係員(18歳)独身・高卒初任給  142,100円[1人 121,200円]
  係員(22歳)独身・大卒初任給  174,200円[1人 121,200円]
  係員(25歳)独身        186,100円[1人 121,200円]
  係員(30歳)配偶者あり     235,000円[2人 179,580円]
  係長(35歳)配偶者、子1人   294,400円[3人 199,600円]
  係長(40歳)配偶者、子2人   326,400円[4人 219,630円]
  地方機関課長(50歳)配、子2人 448,900円[4人 219,630円]
  本府省課長補佐(35歳)配、子1人 460,814円[3人 199,600円]
  本府省課長(45歳)配、子2人  773,842円[4人 219,630円]

 標準生計費は家計調査等に基づく並数階層の水準を示したものなのだが、モデル給与例と比較するとかなり低いものとなっている。それはそれでどう受け止めるのかは色々あるだろう。ここで注目したいのは、モデル給与例を見ていくと、30歳で結婚、配偶者を扶養し、その後も職員1人が働き、家族4人の所帯を支える姿を描いていることだ。明らかに専業主婦の存在を前提にしている。
今後、配偶者手当が廃止された後の家庭のモデルを想定すると、配偶者も働く共働き家庭ということになるだろう。そうなると、モデル給与例の前提も変わっていくことになるだろう。現在のモデル給与例は、民間企業のモデル給与例の考え方を取り入れているように思われる。民間企業の賃金体系が変わるに従って、変わっていくのだろう。

 連合総研が2014年9月に『賃金のあり方に関する論点整理』を公表した。副題は、正社員と非正規雇用労働者を含めたトータルとしての賃金のあり方をめざして、となっている。
論点整理では、「いわゆる「男性稼ぎ手モデル」も見直しを迫られており、片稼ぎであっても、共働きであっても、母子・父子家庭であっても、一人暮らしであっても、誰もが安心して働き続けられる社会をつくるという視点が重要である。さらに、非正規雇用労働者として働きながら主たる生計維持者である者が増えていることや、いわゆるワーキングプアが増えていることから、社会全体としての労働条件の底上げも新たな課題となっている。」と述べ、どのような雇用形態であっても適用されるトータルとしての働き方や処遇のあり方を模索している。一部を引用する。

「終戦直後は5人世帯、石油危機以後は4人世帯を標準的な世帯と考えて差し支えなかったが、核家族化や少子化などが進むことで世帯人員は減少傾向にあり、かつ人生観や生活意識の変化などで共働き世帯数が一人働き世帯数を上回るなど、世帯のあり方は多様化しかつての標準世帯の考え方は通用しなくなりつつある。世帯のあり方をどのように捉えるか、この見直しはこれまでの男性正社員中心の発想に基づく様々な仕組みを改めることにもつながる。」

 そして、多様な働き方に対応した世帯モデルの検討に向けて次のように提案する。

「一つの方向性として検討したいのは、「親1人・子1人モデル」(共働きなら子2人の養育が可能)であり、その水準を目安にしていくことである。これは、一人親になることを勧めようとしているのではない。「男性稼ぎ手モデル」が見直しを迫られるなか、一人でも子どもを育てられる賃金を保障することによって、片稼ぎであっても、共働きであっても、母子・父子家庭であっても、一人暮らしであっても、誰もが安心して働き続けられるであろうと考える。」

 さて、労働側からのこのような提案をどう受け止めていけばよいのだろうか。日本的雇用慣行は、かつては高度経済成長をもたらすエンジンともなったのかもしれないが、現代においては、日本社会の様々な問題を生じさせている原因の一つになっているように思えてならない。抜本的な解決のためには、濱口氏のいう「ジョブ型正社員」制度の導入を目指すことも一つの方策だろう。おそらく、それは従来型の正社員制度を企業の中枢社員制度として残しつつ、それ以外の正社員と非正規社員との一体化という形を取るのではないだろうか。そうすると、それらの賃金も一体化した水準となるのではないだろうか。
 いずれにしても、少子化対策をすすめ、この国の未来を安定化させるには、賃金と社会保障とのバランスを確保することを前提としつつ、それ以上に、安心して子どもを出産し、夫婦が協力して育児できるゆとりのある働き方の実現が求められのではないかと思う。大都市は人々から時間を奪い、出生率を低下させる。地方創成といっても、日本の各地に人々から時間を奪う準大都市を作ってはおしまいのような気がする。

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NO NAME

大多数が係長級以下で終わるのに、課長級の値で論じるのはどうだろうか。
by NO NAME (2015-02-23 01:53) 

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